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東京高等裁判所 昭和29年(う)2773号 判決

控訴人 被告人 藍欲海

弁護人 藤井暹

検察官 鯉沼昌三

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人藤井暹並びに被告人本人の差し出した各控訴趣意書記載のとおりである。

藤井弁護人の控訴趣意第一点について

被告人が昭和二十八年八月十五日午後十一時十分頃原判示道路上において登録原簿に登録をうけていない普通乗用自動車を運転していた事実は被告人もこれを認めて争わないところである。

論旨は被告人は当時運行の目的、回送、運行の経路、豊島、文京区、運行期間、昭和二十八年八月十三日から同月十七日までなる東京都豊島区長発行に係る自動車臨時運行許可証により運行していたものであつて、運行の目的は自動車の部品を購入して該自動車を整備するためであつたのであるから被告人の所為は罪とならないと主張するからこの点について按ずるのに被告人が当時所論の如き自動車臨時運行許可証を所持していたことは原審証人山口潤平の証言により明らかであるが同証言によつて明らかなとおり当時被告人は該自動車に乗客四人位を乗せており回送の目的のために該自動車を運行の用に供していたものと認めることはできない。従つて被告人が当時たとい自動車臨時運転許可証を所持していたからとて被告人の該自動車の運転は右許可証記載の運行の目的に違反しているのであるから原審が被告人の所為をもつて道路運送車両法第四条違反をもつて問擬しているのは相当であり、原判決には所論の如き法律の解釈適用を誤つた違法はない。それゆえ論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

弁護人藤井暹の控訴趣意

第一点原審判決は法律の解釈適用を誤つた違法がある、即ち原審判決は判示第一事実につき「被告人は昭和二十八年八月十五日午後十一時十分頃、文京区西青柳町一番地に於て登録原簿に登録を受けないで普通乗用自動車を運行の用に供したものである」と認定し、これに対して道路運送車両法第四条第一〇八条第一号を適用して有罪の判決を言渡した。然れども原審に於ける被告人の供述、原審証人山口潤平の供述並に本件訴訟記録編綴に係る自動車臨時運行許可申請書写の記載によると被告人は判示日時、場所に於て本件自動車を運転するに当り本件自動車に関する内藤兼義名義の豊島区長発行の臨時運行許可証を所持して居たことが明らかである。

道路運送車両法第三十四条によると「自動車は臨時運行の許可を受けたものである場合は同法第四条の規定にかかわらず同法第三十五条第五項の目的及び経路に限り運行の用に供することができる旨規定せられて居り、原審証人山口潤平の供述によると前叙被告人が所持して居た臨時運行許可証所定の目的は回送経路は豊島区、文京区となつて居ることが明らかにされて居る。而してこの点に関する原審公判廷に於ける被告人の供述によると本件運行当時被告人は自動車の部品を購入して該自動車を整備する目的を以て運行して居たこと及び被告人は別に自動車の運転免許者であること並に前叙臨時運行許可証の名義人である内藤兼義は被告人の妻の兄であることが明白になつて居る。

然らば被告人は本件自動車の運行に関しては被告人の妻の兄に当る内藤兼義所有の本件自動車を同人名義の臨時運行許可証に基き該許可証所定の目的、経路に従い且自動車の運転資格者として適法に運転して居たものであつて何等違法な運行ではないと謂わざるを得ない。然るに原審が以上の事実を顧慮することなく本件被告人の自動車運行につき漫然道路運送車両法第四条及び同法第一〇八条第一号を適用して有罪を認定したるは法律の解釈適用を誤つた違法があり且その誤が判決に影響を及ぼす場合に該当するものと思料する。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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